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糖化ストレスと動脈硬化

同志社大学大学院 生命医科学研究科 糖化ストレス研究センター■■
八木雅之 先生 監修■■
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動脈硬化の分類と定義

 動脈硬化性疾患(arteriosclerotic disease)とは、主として心血管疾患と脳血管疾患を指しているが、近年、末梢動脈硬化性疾患を含めた multiple vessel disease として認識されている 1)。一方、動脈硬化は動脈壁の肥厚、硬化、改築を示す動脈病変の総称であり、粥状硬化(atherosclerosis)、細小動脈硬化(arteriolosclerosis)、メンケベルグ型中膜石灰化 (Monckeberg’s medial calcific sclerosis)に分類される。このうち粥状硬化は生活習慣病の発症に最も関係が深い動脈硬化病変であり、比較的大きな弾性型動脈に発生する。粥状硬化は組織学的にみると血管の内膜にアテローム(atheroma)とよばれる脂質に富む壊死崩壊産物が蓄積し、細胞線維性被膜がその表層を覆った病変である 2)。なお粥状硬化は世界保健機関(World Health Organization ; WHO)により「主として内膜に起こる変化で脂質、酸性ムコ多糖類、血液由来の物質、線維および石灰化物などの集積した病変」と定義されている。

粥状硬化と AGEs

 粥状硬化の形成には複数の機序が関与する。粥状硬化の初期病変は脂肪線条(fatty streak)とよばれる。脂肪線条では細胞線維性に肥厚した血管の内膜に血液由来の脂質が沈着し、ここにマクロファージ由来の泡沫細胞の集積とTリンパ球の浸潤が起こる 3)。この病変は血管から内皮細胞を通過したリポ蛋白、特にアポリポ蛋白B(apolipoprotein B : ApoB)が 1分子と、コレステロール、リン脂質、中性脂肪などの脂質からできた LDL(low-density lipoprotein)が細胞外基質やプロテオグリカン(proteoglycan)と結合して内膜に蓄積することによって起こる(図1)4)

粥状硬化の形成
図1 粥状硬化の形成
坂田則行(2012)4)

 糖化した LDL は LDL受容体に認識されず内皮細胞に蓄積する。糖化LDL は AGE 化すると、内皮細胞、平滑筋細胞などの血管細胞で発現した AGEs受容体(RAGE)に結合し、活性酸素の産生、 PKC(protein kinase C)活性化、 MAPキナーゼ(mitogen-activated protein kinase)の活性化を介して炎症性サイトカインや接着因子の発現を増強させる。その結果、平滑筋細胞の遊走・増殖、内皮細胞の異常、酸化ストレスの亢進が起こる。酸化ストレスにより生成した活性酸素は、血管壁細胞だけでなく糖化LDL も酸化する。糖化した LDL の酸化が進むと過酸化脂質である脂質ヒドロペルオキシド(lipid hydroperoxide)が蓄積し、さらに二次生成物であるマロンジアルデヒド(malondialdehyde ; MDA)を生成する。 LDL が糖化を受けるとヘキシトールリジン(hexitollysine ; HL)が生成する。一方、活性酸素の存在下では LDL から CML が生成する。そして酸化、糖化、糖酸化修飾された LDL は内膜に蓄積する(図2)4)。酸化LDL の蓄積にはコラーゲンに対する結合性の亢進が関与している 5)

図2. 細胞線維性内膜肥厚部中のAGEs
図2 細胞線維性内膜肥厚部中のAGEs
A : CML抗体染色, B : 抗AGEs(non-CML)抗体染色,
C : 抗ApoB抗体染色, D : 抗マクロファージ(HAM56)抗体染色
矢印の濃く染まった箇所は蓄積を示す.
坂田則行(2012)4)を改変

内膜に蓄積した修飾LDL は、生成した CML と脂質過酸化物である酸化フォスファチジルコリン(oxidized phosphatidylcholine ; OxPC)と共に、内膜に浸潤したマクロファージに取り込まれて泡沫細胞化する 6)。一方、動脈硬化性疾患の指標であるアポリポ蛋白の一種の ApoB や AGEs の一種であるピラリン(pyrraline)はマクロファージに取り込まれないため内膜の細胞外マトリックスに分布する(図3) 6)

図3. 脂肪線条における AGEs の蓄積
図3 脂肪線条における AGEs の蓄積
悪性リンパ腫(malignant lymphoma)で死亡した 70歳女性
A : 抗マロンジアルデヒド(MDA)抗体染色, B : 抗CML抗体染色
C : 抗ピラリン抗体染色, ★ : 粥腫部, ※ : ピラリン蓄積部
Sakata N, et al (2001)6) を改変

そしてマクロファージからは TNF-α、 TNF-β、 IL などの炎症性サイトカインや増殖因子が放出される。このため平滑筋細胞は形質転換し、遊走・増殖、コラーゲン産生を促進する。さらにマトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase)などの蛋白分解酵素も分泌されるため、内膜組織の破壊と修復が繰り返される。この結果、内膜には粥状硬化が形成される。
アテロームを覆う線維性被膜の亀裂、腫瘍化、出血などが起こると血栓が形成されるため、急性冠症候群や脳梗塞の原因となる。

動脈石灰化と AGEs

  進行した粥状硬化のアテロームには石灰沈着がみられ、動脈壁の変性、壊死過程の終末像と考えられている。粥状硬化部周辺の平滑筋細胞や泡沫細胞がアポトーシスを起こすと、それに引き続く細胞崩壊により膜様小胞(membranous vesicle)が細胞外マトリックスに放出され、ヒドロキシアパタイト(hydoroxyapatite)が生成する。ここにミネラリゼーション(mineralization)が起こると無定形な石灰が沈着する。
 糖尿病では血管の石灰化が促進される。糖尿病では糖化が亢進して動脈壁コラーゲンにAGEs化が起こり、AGEs化したコラーゲンの分子構造が変化してカルシウム沈着を起こしやすくなる 2)。このため糖尿病患者の動脈中膜にはメンケベルグ型中膜石灰化の初期病変である顆粒状石灰化がみられる。石灰化した中膜には CML が局在する。 CML は動脈コラーゲンにも形成されていることが示されている 7)
 腎不全患者では大動脈などの弾性型動脈の弾性線維に沿って石灰沈着がみられる。腎不全患者の血管石灰化にはカルシウムやリンの代謝異常とともに、血清中 AGEs化ペプチド、ペントシジン、 CML などの AGEs と糖化反応中間体であるジカルボニル化合物の上昇が関与している 8-9)。腎不全では AGEs や糖化反応中間体が体内に蓄積し、 AGEs化をさらに促進する悪循環が起こるため、粥状硬化を含む血管硬化が進行して石灰化が進む。  血管の石灰化は動脈の機能低下を起こし、脈圧増大、心臓負荷、末梢循環の不全を招くと共に粥状硬化の不安定化にも関係する。このため AGEs による動脈の石灰化抑制は糖尿病や腎不全患者の心血管合併症予防や改善に重要となる。

参考文献

  1. 寺本民生:栄養学雑誌. 2013 ; 71 : 3-13.
  2. 坂田則行ら:動脈硬化と糖化, 糖化による疾患と抗糖化食品・素材. 2011 : 66-76, シーエムシー出版.
  3. Nakashima Y, et al. : Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2007 ; 27 : 1159-1165.
  4. 坂田則行:アンチエイジング医学. 2012 ; 8 : 42-48
  5. Jimi S, et al. : Atherosclerosis. 1994 ; 107 : 109-116.
  6. Sakata N, et al. : Cardiovasc Res. 2001 ; 49 : 466-475.
  7. Sakata N, et al. : J Vasc Res. 2003 ; 40 : 567-574.
  8. Sakata N, et al. : Nephrol Dial Transplant. 2003 ; 18 : 1601-1609.
  9. Miyata T, et al. : J Am Soc Nephrol. 1998 ; 9 : 2349-2356.