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糖化と動脈硬化

動脈硬化とは

動脈硬化とは動脈が肥厚して硬化した状態を言い、これによって引き起こされるさまざまな病態を動脈硬化症という。動脈硬化の種類にはアテローム(粥状)硬化、中膜硬化(メンケルベルグ型動脈硬化)、細動脈硬化などのタイプがあるが、注記のない場合アテローム硬化を指すことが多い(図1)。

アテローム硬化は、脂質異常症(高脂血症)や糖尿病、高血圧、喫煙などにより生じると考えられる。最終的には動脈の血流が遮断されて、酸素や栄養が重要組織に到達できなくなる結果、脳梗塞や心筋梗塞などの原因になる。特に動脈硬化症の主要な危険因子になっている糖尿病では、虚血性心疾患、脳血管障害、閉塞性動脈硬化症の合併頻度が高い。

平成14年度糖尿病実態調査によると、「糖尿病が強く疑われる人」の15.8%に心臓病が、7.9%に脳卒中があり、「糖尿病の可能性を否定できない人」でも10.0%に心臓病が、5.3%に脳卒中があるとされている。さらに日本人糖尿患者の死因調査によると、血管障害(虚血性心疾患、脳血管障害、腎障害)による死亡の割合は、日本人一般の24.6 %に比べ糖尿病患者で39.3%と多かった。糖尿病の動脈硬化進展には高血糖状態がもたらす種々の代謝異常が複雑に絡んでいるようであり、タンパク質の糖化により形成されたAGEsやフリーラジカルなどの酸化ストレス、インスリン抵抗性など多くの因子が関与していると考えられている。

動脈硬化のタイプ

図1. 動脈硬化のタイプ

糖尿病における動脈硬化発症機構

糖尿病患者では血管壁へのAGEs蓄積など血管合併症に対してAGEsの関与を示す報告がなされている。現在、動脈硬化発症進展には少なくとも2つのメカニズムの可能性が考えられている。

ひとつは糖化や架橋形成などによる直接的な細胞外マトリックスタンパク質の修飾・構造変化による、直接的な組織障害を引き起こすメカニズムである。もうひとつは、AGEsを特異的リガンドとして認識する細胞表面受容体が引き起こす細胞応答によるメカニズムである。

AGEsを特異的に認識する細胞表面受容体としてはRAGE、ガレクチン3、SR-A、CD36、SR-BIなどが同定されている。AGEsは血管内皮細胞表面のRAGEと結合することにより、血管内皮増殖因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)の発現を誘導し、VEGFの作用によって内皮細胞の増殖促進と管腔形成(空洞化)促進を引き起こす。

またプロスタサイクリン産生を低下させる一方、プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター(plasminogen activator inhibitor:血栓溶解阻害物質)を誘導し、線溶活性を低下させることで血栓傾向に導く。なおRAGEは血管系などさまざまな組織で発現しており、AGEsの結合により様々な細胞応答を引き起こすと考えられている(図2)。

RAGEとAGEsによる細胞応答と血管障害の関係

図2. RAGEとAGEsによる細胞応答と血管障害の関係

アテローム硬化とAGEs

血管壁の粥状化病変はコレステロールエステルを蓄積した泡沫細胞の存在を特徴としている。初期病変では、血管内皮を経由して内膜に遊走した単球がマクロファージに分化する。一方、血中から血管内皮に移行したLDLは、AGE化などを受けて修飾LDLへと変化し、スカベンジャー受容体などを介してマクロファージに取り込まれた後、コレステロールエステル(CE)を蓄積した泡沫細胞になる。

実験的に調製したAGE-LDLは高いマクロファージ泡沫化能を有することも確認されており、内膜における泡沫化細胞の増加が、アテローム(粥状硬化巣)の形成や内膜の肥厚を進展させている(図3)。

さらにアテロームが大きくなると内皮表面の膜が薄くなって破れて血栓が作られる。粥状化病変部位では、これを繰り返しながら動脈硬化が進み、結果として血管が狭くなって血流が滞ったり、閉塞したりする。

また、LDLが糖化を受けるとLDL受容体に対する認識能が低下するため、クリアランスの遅延が起こり、血中LDLコレステロール値が上昇することも動脈硬化を惹起する要因と考えられている。

AGEsとアテローム(粥状)動脈硬化メカニズム

図3. AGEsとアテローム(粥状)動脈硬化メカニズム

フリーラジカルとAGEs

スーパーオキシドアニオン(O2)やヒドロキシラジカル(・OH)などの活性酸素種は不対電子対を持つため、非常に反応性の富む不安定な物質として知られ、一般にフリーラジカルと呼ばれている。

グルコースはFe3+やCu2+などの遷移金属イオン存在下で非酵素的に酸化されスーパーオキシドアニオンを生成する。また糖化反応の過程でフリーラジカルが生成することも報告されている。

体内には、フリーラジカルに対する組織防御機構として抗酸化酵素であるスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)やカタラーゼなどが存在する。しかし、両酵素共に高グルコース下で糖化を受けたり、生成したフリーラジカルにより断片化されたりすることによって活性低下を起こすことが知られており、高血糖状態が生体を酸化ストレス状態に傾けていることを示している。

また、血中アルブミンが糖化されることにより、ラジカル捕捉型抗酸化作用が損なわれることも報告されている。さらに脂質にAGE化が起こること、脂質の酸化がAGEsによって引き起こされること、糖尿病患者のLDL中AGEsが健常者と比べて高値を示すことも知られている(図4)。

以上のように糖化反応の進行およびタンパク質のAGE化が生体中のフリーラジカルの相対的な活性上昇を招き、結果的に内皮細胞の障害や変性脂質の形成して動脈硬化が進展するとも考えられている。

糖尿病患者におけるLDL中のAGEs値

図4. 糖尿病患者におけるLDL中のAGEs値

参考文献

  1. 日本医師会ホームページ, 健康の森, 知って得する病気の知識「動脈硬化(動脈硬化症)」.
    http://www.med.or.jp/chishiki/doumyakukouka/002.html
  2. 山岸昌一(編), AGEs研究の最前線 糖化蛋白関連疾患研究の現状, 231pp, メディカルレビュー社, 2004.
  3. 繁田幸雄ら(編), 蛋白の糖化 AGEの基礎と臨床, 163pp, 医学書院, 1997.