食品の褐変化と糖化反応 - アークレイ

機能性食品素材

食品の褐変化と糖化反応

食品は調理・加工・保存の過程で多様な色変化が起こります。特に褐色に変化する現象は「褐変化」と呼ばれます。褐変化には、(1) 食品の調理や加工工程で行う加熱や保存により発生するもの、(2) 食品中に含まれる色素成分によるものがあります。

(1)には糖類の加熱によるカラメル化反応と、糖とアミノ酸からメラノイジンを生成する糖化反応(アミノカルボニル反応)があります。これらは肉類・菓子などの焼き調理や味噌・醤油などの醸造中に起こり、食品に焼き色や香味を付与して風味を向上させる効果があります。一方、糖化反応は加熱調理を伴わない食品の保存中にも起こります。このため、素材や調理・加工直後の色・香りを重視する食品にとっては、品質を低下させる原因の1つになっています。

(2)はポリフェノール酸化酵素による反応で、リンゴ、ヤマノイモなどの切り口色が処理後の時間と共に黒褐色に変化する現象です。

食品化学では褐変化をコントロールすることが食品の品質維持・向上の課題になっています。

カラメル化反応による褐変

カラメル化反応は糖類が100℃以上に加熱されることによって、アミノ化合物と反応することなく褐変化する現象をさします。従ってカラメル化反応と糖化反応は異なります。しかし食品は複雑な組成でできているため加熱時に共存する成分が触媒的に働き、カラメル化反応と糖化反応が並行して起こります。このためカラメル化反応と糖化反応は混同されがちです。一般の食品でカラメル化反応だけが進行することはありません。しかしカカオやコーヒー豆の焙煎・焼肉・製パンなどの場合はカラメル化反応の割合が大きいともいわれています。

還元糖を単独で150℃程度に加熱すると、アノマー化や異性化が起こると同時に、イソマルトースやゲンチオビオースなど1,6-グルコシド結合を持つ二糖類、1-6-アンヒドロ糖、オリゴ糖などが生成します。さらに脱水縮合反応によって3DG、5-ヒドロキシメチルフルフラール、2-ヒドロキシアセチルフランが生成します。また同時にコハク酸、酒石酸、ピルビン酸、レブリン酸、フランカルボン酸などの不揮発酸も生成します(図1)。カラメルはグルコースが4分子脱水した化学構造式で示されています。

糖の加熱により生成する揮発性物質

図1. 糖の加熱により生成する揮発性物質
木村 進ら(編), 食品変色の化学より

食品の着色に使われるカラメルは糖類を単独で加熱するだけでなく、アンモニウム塩・ナトリウム塩などを添加して使用される食品に適した特性を有するように作られています。このため市販のカラメルには糖化反応生成物も含まれています。

食品における糖化反応とメラノイジン生成の意義

糖化反応によって生成する褐色の物質をメラノイジン(melanoidin)とよびます。これはメイラード反応(糖化反応)の発見者であるL.C.Maillardが「メラニン(malanin)に似た物質」と称したことに由来するといわれています。メラノイジンの化学構造は明らかになっておらず、多数の着色物質による集合体と考えられています。メラノイジンは糖類から生成したD-グルコシドがエナミノールを経由してアマドリ化合物になり、オソンやフルフラール類を中間体としてアミノ化合物との縮重合反応した後、ピロールアルデヒドなどを経由して生成する褐色の最終産物であると推定されています(図2)。

メラノイジンの生成経路

図2. メラノイジンの生成経路
木苗直秀(AGEs研究の最前線, 2004)より

食品中に含まれる還元糖にはグルコース、フルクトース、マルトース、ラクトースおよびオリゴ糖の醗酵過程で生じるキシロースなどがあります。またショ糖は非還元糖ですが、酸の存在下で加水分解してグルコースとフルクトースを生じて還元糖を生成します。このためショ糖は食品加工において潜在的な糖化反応源になっています。

糖化反応は食品の調理・加工の過程で色や香りの生成およびテクスチャーの変化をもたらすため、食品の品質を構成する上で欠かせない反応の1つです。また褐変化は食品の加熱履歴や貯蔵時間と相関することから、鮮度低下や品質劣化の指標にもなっています。

グリシン、セリン、イソロイシン、グルタミン酸などのアミノ酸から得られたメラノイジンには、ヒドロキシラジカル(・OH)の消去活性が確認され、抗酸化作用を有することが報告されています。

焼魚、焼肉などの焼き調理過程で生じる「焦げ」にはヘテロサイクリックアミンの一種であるTrp-P-1(3-amino-1,4-dimethyl-5H-pyrido [4.3-b] indole)が含まれ、発がん性を有することが知られています。一方、醤油、黒ビールなどに含まれるメラノイジンはTrp-P-1に対して抗変異原活性を有することが確認されています(図3)。

褐変食品の抗変異原性

図3. 褐変食品の抗変異原性
木苗直秀(AGEs研究の最前線, 2004)を改変

食品の加熱における糖化反応の進行とメラノイジン生成にはメリットとデメリットの両面があり、これらを制御することが食品の機能性を活用していく上で重要なポイントになっています。

食品の香味生成と糖化反応

食品の香りは品質や嗜好性を決める上で重要な要素の一つです。また食品の香りには、食品素材そのものが元々持っている香味と、食品が加熱調理されることによって生成する香味があります。例えば牛肉は生の状態で血液様の生臭さがありますが、加熱調理によって食欲をそそる独特の好ましい香味を生じます。ナッツやコーヒーは焙煎された後、それぞれ特有の好ましい焙煎香味を生じます。食品の加熱による香りの生成は、さまざまな成分間の複雑な反応の結果であると考えられています。中でも主要成分である糖(炭水化物)とタンパク質(アミノ酸)が関与する糖化反応は、加熱による香りの生成に重要な役割を果たしています。

既に糖とアミノ酸の組み合わせによる糖化反応生成物モデルから、さまざまな種類の香気成分が単離・同定されています(図4)。

食品の糖化反応で生成する香味成分

図4. 食品の糖化反応で生成する香味成分
藤田 明(蛋白の糖化, 1997)より

これらの化合物群のうち、特に環状構造を持ったものは匂いの閾値が低く、特徴的な香気を示すものが多いため加工食品の香味付けに重要な役割を果たしています(図5)。

アミノ酸と糖を加熱したときに生成する香味の違い

図5. アミノ酸と糖を加熱したときに生成する香味の違い
木村 進ら(編), 食品変色の化学より

食品中の香気成分は、糖化反応の過程で生じるα-ジカルボニル化合物とアミノ酸が脱水縮合してできた化合物が、さらに酸化的脱炭酸化を受けてアルデヒドやピラジンを生成する反応から生じます。この反応はドイツの化学者、アドルフ・ストレッカーが研究したことからストレッカー分解とよばれています(図6)。香味は本反応で生じるアルデヒドやピラジン類によるものです。アスコルビン酸(ビタミンC)の酸化物であるデヒドロアスコルビン酸もα-ジカルボニル化合物としてアミノ酸と反応し、ストレッカー分解によりデヒドロ-L-スコルバミン酸を生成すると赤~褐色の色素になります。この現象はアルコルビン酸を多く含む野菜やカンキツ類のジュース貯蔵中に見られています。

糖化反応による香味成分の生成

図6. 糖化反応による香味成分の生成
藤田 明(蛋白の糖化, 1997)より

食品中の水分や脂質量は食品ごとに異なり、それぞれに適用される加熱調理方法もさまざまです。また加熱調理方法によっても水分・脂質含量が大きく異なります。一般に食品の水分含量は、「煮る・ゆでる」といった湿熱調理法においてほとんど変化しないか微増で、「焼く・いためる・揚げる」といった乾熱調理法で大きく低下します。ロースト感のある焙焼香味の生成は、「煮る・ゆでる」で少なく、「焼く・いためる・揚げる」で多くなります。このように食品の香味生成は、加熱温度、時間、水分・脂質含量の違いなど、さまざまな要因が影響しています。

ポリフェノール酸化酵素による褐変化

果実、野菜などの植物素材には茶やコーヒーの味に代表される収斂味の形成に関与するフェノール系化合物が含まれています。これらはポリフェノールとよばれる化合物群でフェノールカルボン酸類、フェノールアミン類、アントシアニン類、フラボン類、タンニン類などです。

野菜や果実の切り口は、空気中に放置するとすぐに褐色化します。また紅茶は茶葉が褐変化する現象を積極的に利用したものです。この色変化にはポリフェノールオキシダーゼを主とする酸化酵素が関与しています。

ポリフェノール酸化酵素は鉄-ポルフィリンタンパク質であるパーオキシダーゼと、銅-タンパク質であるポリフェノールオキシダーゼ(PPO:polyphenoloxidase)に大別されます。果実、野菜などに含まれるポリフェノールは空気中でPPOの作用により、素早く褐変化します。これはo-またはp-ジフェノールあるいはモノフェノール構造を有するフェノール成分がPPOで酸化されてキノンになり、その後の重合反応で化学的に安定な褐色色素を生成するためです(図7)。さらに生成したキノンがタンパク質などのアミノ基を有する化合物と反応してAGEsを生成することもあります。従って植物素材の褐変化は単一の反応だけではありません。

ポリフェノールオキシダーゼによる褐色化反応

図7. ポリフェノールオキシダーゼによる褐色化反応
木村 進ら(編), 食品変色の化学より

紅茶の製造過程で生成するテアフラビン、テアルビジンなどは、茶葉の主成分であるカテキン類がPPOにより酸化を受けたために特有の赤色を示します。しかしPPOの作用で生成する赤~褐色色素の構造はほとんど不明です。

PPOによる酵素的褐変化の防止にはPPOの活性が低い作物品種の育成、加工工程における酸素の除去、低pH(4以下)、低温(5~10℃)、ナトリウムイオンまたはコウジ酸によるPPO活性中心の金属(銅)の封鎖、アスコルビン酸、チオール類(SH化合物)、亜硫酸塩による生成するキノンの還元などが行われています。

参考文献

  1. 繁田幸雄ら(編), 蛋白の糖化 AGEの基礎と臨床, 163pp, 医学書院, 1997.
  2. 山岸昌一(編), AGEs研究の最前線 糖化蛋白関連疾患研究の現状, 231pp, メディカルレビュー社, 2004.
  3. 木村 進ら(編), 食品変色の化学, 415pp, 光琳, 1995.